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平成26年(ネ)第10018号
誘電体磁器事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

組成物発明の分野において,発明特定事項の一部である「結晶構造等の属性」が公知刊行物に記載されていない場合でも,当業者が当該刊行物記載の実施例の再現実験により確認し得る場合は,その属性も含めて,「刊行物に記載された発明」と評価し得る。

 事件番号等:平成26年(ネ)第10018号(知財高裁 H26.09.25 判決言渡)
 事件の種類(判決):損害賠償請求控訴事件(控訴棄却)
 原告/被告:京セラ株式会社/株式会社MARUWA
 キーワード:刊行物記載発明,再現実験,組成物発明,結晶構造等の属性,無効審判
 関連条文:特許法104条の3 1項,同法29条1項3号,同条2項

○事案の概要

「誘電体磁器」の特許権者である控訴人は,特許権侵害を理由に被控訴人に1億円の損害賠償の支払を求める訴えを提起し,被控訴人は,無効審判を請求した。この無効審判の請求に対して,無効成立の審決がなされたため,控訴人は審決取消訴訟を提起するとともに訂正審判を請求し,知財高裁は審決を取消す旨の決定をした。
 その後,再開された審判における審決,その審決の取消を求める訴えの提起が,繰り返され,その過程において,本件特許発明の選択発明としての進歩性を判断するにあたって,実験報告書等により明らかにされた結晶構造等の属性も公知公報に「記載された発明」となると解してよいか否かの判断がなされた。

○知財高裁の判断

(1)「……本件訂正発明や乙1発明のような複数の成分を含む組成物発明の分野においては,乙1発明のように,本件訂正発明を特定する構成の相当部分が乙1公報に記載され,その発明を特定する一部の構成(結晶構造等の属性)が明示的には記載されておらず,また,当業者の技術常識を参酌しても,その特定の構成(結晶構造等の属性)まで明らかではない場合においても,当業者が乙1公報記載の実施例を再現実験して当該物質を作成すれば,その特定の構成を確認し得るときには,当該物質のその特定の構成については,当業者は,いつでもこの刊行物記載の実施例と,その再現実験により容易にこれを知り得るのであるから,このような場合は,刊行物の記載と,当該実施例の再現実験により確認される当該属性も含めて,同号の「刊行物に記載された発明」と評価し得るものと解される(以下,これを「広義の刊行物記載発明」ともいう。)。

(2)「これに対し,刊行物記載の実施例の再現実験ではない場合,例えば,刊行物記載の実施例を参考として,その組成配合割合を変えるなど,一部異なる条件で実験をしたときに,初めて本件訂正発明の特定の構成を確認し得るような場合は,本件訂正発明に導かれて当該実験をしたと解さざるを得ず,このような場合については,この刊行物記載の実施例と,上記実験により,その発明の構成のすべてを知り得る場合に当たるということはできず,同号の「刊行物に記載された発明」に該当するものと解することはできない。」

(3)「乙1公報には,上記実施例(乙1公報の図1の試料4及び試料5)である誘電体磁器について,その結晶構造(本件訂正発明の構成要件C及びD)に関する明示的な記載はない。しかし,乙1発明の上記実施例を再現実験して,誘電体磁器を作成すれば,その結晶構造については,当業者が確認し得る属性であり,また,その具体的な結晶構造は前記アないしウ認定のとおりであるから,当業者は,いつでもこの乙1公報記載の実施例と,その再現実験により,本件訂正発明の構成のすべてを知り得るのであり,このような発明は,同号の「刊行物に記載された発明」(広義の刊行物記載発明)に当たると解するのが相当である。」


(玉腰 紀子)

○コメント

 最近の分析技術の進歩は著しいものがあり,従来知られていなかった結晶構造などが発見され,それと特性の関係などが明らかになることがある。
 公知刊行物に記載された組成物について,再現実験により結晶構造などの新たな属性を発見しても,そのこと自体は単なる発見で発明ではないが,その知見をもとに新たな用途を考えればそれは用途発明になる。
 このような用途発明の進歩性を考えるとき,刊行物に記載された事項(組成,製造条件など)と,再現実験により知見された結晶構造等の知見と,その知見に基く新たな用途の間の困難性が問題になるが,本判決は,「刊行物の記載と,当該実施例の再現実験により確認される当該属性も含めて,「刊行物に記載された発明」と解するのが相当である,としている。
 これに対し,組成配合割合を変えるなど,一部異なる条件で実験をしたときに,初めて属性を確認し得るような場合は,実験により,その発明の構成のすべてを知り得る場合に当たらないから,「刊行物に記載された発明」には該当しないものとした。


(須山 佐一)

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