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平成26年(行ケ)第10248号
質量分析器事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 本件発明1と甲1発明の目的は共通しないが,液体金属イオン源を用い,二次イオンを検出して質量分析を行う甲1発明において,二次イオン生成量の多い一次イオンビームを選択することは,当業者が容易に想到できたことであるとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10228号(知財高裁 H27.11.25 判決言渡)
 事件の種類(判決):無効審決取消請求事件(請求棄却)
 原告/被告:イーオン-トーフ・テクノロジーズ・ゲー・エム・ベー・ハー/アルバック・ファイ株式会社
 キーワード:進歩性,発明の目的の共通性,イオンビーム
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本件発明1は,二次イオン及び後からイオン化された中性の二次粒子を分析するための質量分析器に関する発明である。審決は,甲1発明と本件発明1の相違点1を,イオン源が「加熱可能なイオンエミッタを有しており,該イオンエミッタの場にさらされる領域が液体金属層で被覆されており」,「前記液体金属層は純粋な金属ビスマスまたは低融点のビスマス含有合金からなり,その際電場の影響下でイオンエミッタを用いてビスマスイオン混合ビームを放射可能であり」,用いるイオンビームが「n≧2」であるのに対して,引用発明では,「一次イオンビームはGa,In,Sn,Au又はBiの液体金属イオンカラム中に生成された金属イオン」であるものの,イオン源の具体的構成が不明で,用いるイオンビームが「n≧1」である点,と認定し,本件発明1は甲1発明等に基づいて当業者が容易に想到できたものである,と判断した。

○知財高裁の判断

 本件発明1と甲1発明の相違点1のうち,「加熱可能なイオンエミッタを有しており,該イオンエミッタの場にさらされる領域が液体金属層で被覆されて」いる構成のイオン源を,二次イオン及び後からイオン化された中性の二次粒子を分析するための質量分析器において用いることが,周知技術(甲3)であるとした審決の判断には誤りがないことは,当事者間に争いがない。

 甲1発明の目的は,甲1文献の記載によれば,スパイク確率モデルに基づく計算結果をkeVイオンの有機液滴スパッタリングから得られたデータと比較することによって,スパイク確率モデルの有効性を検証することにあるのに対し,本件発明1の目的は,二次イオン質量分析器の操作において,クラスターイオンに関し,改善された二次イオン生成量を有するイオン源を提供することにあるから,本件発明1と甲1発明では,その目的を共通にするものとはいえない。
 しかし,TOF-SIMS(飛行時間型質量分析器)は,パルス状の一次イオンビームを試料表面に照射し(甲3の2),試料表面から放出される二次イオンを検出して,試料表面の質量分析を行うものであるから,当業者が甲1文献に接すれば,効率のよい測定を行うために,パルス状のイオンビームとしてどのような一次イオンビームを選択すれば,二次イオンの生成量を多くできるのかということについて着想するものと認められる。
 甲1文献には,液体金属イオン源(液体金属イオンカラム)を用いた飛行時間型二次イオン質量分析器(TOF-SIMS)用の一次イオンビームとして,・・・を用いた場合(図2)のそれぞれについて,二次イオン([dAMP-H]-)の生成量を測定した結果がデータとして開示されているのであるから,当業者であれば,甲1発明の目的にかかわらず,甲1文献に開示された測定結果をもとに,甲1文献に列挙された一次イオンビームの中から,二次イオン生成量の多い一次イオンビームを選択して使用することは適宜なし得ることであるといえる。
 そうすると,相違点1を解消して本件発明1の当該構成に想到することができるかについては,甲1文献に列挙された一次イオンビームの中から,Biのクラスターイオンを選択することが可能であるか否かという問題であるといえる。

 液体金属イオン源について,多くの応用に向けた開発が行われてきたことなど甲2文献の上記記載によれば,甲2文献に開示された技術内容は,液体金属イオン源の特性に関するものであるといえ,甲1発明と同一の液体金属イオン源を用いる技術分野に関するものであると認められる。
 そうすると,甲2文献の上記記載に接した当業者であれば,Auイオンに比べてBiイオンの方がクラスターイオンの含まれる割合が高いことから,Biのクラスターイオンビームが二次イオン生成量の点で優れていることを理解するのであって,甲1文献に列挙された一次イオンビームの中から,Biのクラスターイオンを選択することは容易になし得ることであるといえる。

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