本件特許権者が出願経過において提出した意見書等には,回折角の数値に一定の誤差が許容されることや,15本のうち一部のピークの対比によって発明が特定されることの示唆はなく,被控訴人製品の回折角の数値は,15本のうち14本で数値が相違しているから,被控訴人製品は,構成要件C・C’を充足しない,とされた。
事件番号等:平成27年(ネ)第10080号(知財高裁 H28.02.24)
事件の種類(判決):特許権侵害差止等請求(控訴棄却)
控訴人/被控訴人:日産化学工業株式会社/沢井製薬株式会社
キーワード:構成要件充足性,均等,禁反言,発明の特定,回折角
関連条文:特許法70条,100条1項
*構成要件C,C’を充足しない
本件各発明の構成要件C・C’においては,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶が15本のピークの小数点以下2桁の回折角(2θ)を有することにより特定されている。他方,本件発明1-1に係る特許請求の範囲には,上記回折角の数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,上記15本のピークのうちの一部のみの対比によって特定される旨の記載はない。以上によれば,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要するものと解するのが相当である。
控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本件発明1の結晶を特定したというほかない。
控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩における15本のピークの回折角であるとする数値は,原判決別紙物件目録(1)記載のとおりであり,控訴人の特定する数値に依ったとしても,15本のうち14本は構成要件C・C’の回折角の数値と相違している。そうすると,被控訴人製品及びその保存方法が,構成要件C・C’を充足するものとはいえない。