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平成24年(行ケ)第10239号
溶融ガラスの清澄方法事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

本願発明における溶融ガラス温度が記載されている,物理的清澄方法に関する引用例1と,化学的清澄方法に関する本願発明の解決課題が相違するために,引用発明に公知の化学的清澄方法を組合せる動機付けがないとして,容易想到性が否定された。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10239号(知財高裁 H25.03.21 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求
 原告/被告:ショット アクチエンゲゼルシャフト/特許庁長官
 キーワード:進歩性,実施例,発明の開示,動機付け
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明は,「溶融ガラス中の清澄剤により清澄ガスが発生する溶融ガラスの清澄方法において,少なくとも1種の清澄剤が溶融ガラスに添加されること,この溶融ガラスについて上記清澄剤による清澄ガスの最大放出が1600℃を超える温度で生起すること,及び溶融ガラスは1700℃~2800℃の温度に加熱されることを特徴とする溶融ガラスの清澄方法」である。
 前審の審決は,高温でのガラスの溶融方法(引用発明)を開示した引用例1に,溶融ガラスに清澄剤を添加する化学的清澄方法を開示した引用例2を組み合わせることで,本願発明を容易に想到し得るとして請求を棄却した。

○知財高裁の判断

(1)本願発明は,特に高融点ガラス材料に対して公知の清澄剤を添加しても清澄効果が十分ではなく,毒性を有するものを含む清澄剤を多量に添加する必要があったという課題を解決するため,従来の温度(せいぜい1700℃)よりも高い温度(1700℃ないし2800℃)にガラス材料を加熱することとし,かつ,当該温度に加熱されたガラス材料において清澄ガスを発生させるような清澄剤を添加する…,…ものであるといえる。
 引用例1には,従来のガラス溶融用の炉を裏打ちする耐火物がガラスによって徐々に溶解又は腐蝕するため,溶融及び精製温度が1600℃より低い値に制限されるという課題を解決するため,当該炉を囲んでモリブデン等の耐蝕性材料で形成した容器保護ライナーを備え,併せてバッチ内電極等によるホットスポット精製を行う構成を付加的に備える…,…発明が記載されているといえる。

(2)本願発明にいう「清澄ガス」とは,専ら化学的清澄方法において溶融ガラスに清澄剤を添加することにより発生するガスを意味するものと認められる。一方,引用発明における清澄剤は,溶融ガラスを1800℃ないし2000℃の温度に加熱することのほか,バッチ内電極等によるホットスポット精製を行う構成を組み合わせてもよいというものであって,物理的清澄方法であると認めることができる。したがって,引用発明は,「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」溶融ガラスの清澄方法であるとはいえず,この点は相違点となる。

(3)本願発明と引用発明とは,技術分野及び溶融ガラスが1800℃ないし2000℃の温度に加熱される点で共通するが,解決すべき課題が同一あるいは重複しているとはいえない。また,例えば溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させることについては,引用例1には何ら記載も示唆もなく,上記の物理的清澄方法に対して清澄剤を添加して化学的清澄方法により溶融ガラスを清澄することを組み合わせることについては,示唆も動機付けもない。

(4)さらに,化学的清澄方法に関する各証拠にも,引用発明に対して,化学的清澄方法による引用例2に記載された発明を組み合わせることを示唆ないし動機付ける証拠の存在が認められない。のみならず,本願発明の作用効果については,前掲各証拠には何ら記載も示唆もないから,引用発明を含む従来技術に接した当業者は,本願発明の奏する作用効果を予測することができなかったものといえる。

(玉腰 紀子)

○コメント

 上記(1)に示すように,本願発明と引用発明では解決課題が相違している。
 判決は,化学的清澄方法における処理対象の溶融ガラスについて,1700℃以下という温度を記載した複数の特許公報も証拠として引用しているが,これらの特許公報の実施例に記載されたガラス温度が,最高でも1620℃であることから,引用発明の温度範囲において化学的清澄方法を採用することは公知でも自明でもない,と判断した。
 本裁判で引用された特許公報について言えば,ガラス温度は実施例として記載された温度だけが出願明細書に開示されたガラス温度として認められたということであり,この分野の明細書作成者としては,この点に留意する必要がある。

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