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平成24年(行ケ)第10243号
配線構造事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

請求項の「……炭化シリコン(SiaCbOc)……,前記cは0を含まない0~0.8である」の数値限定の意義につき,酸素をその効果が発揮できる程度に意図的に含有させたことを意味する,とする主張が退けられた。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10243号(知財高裁 H25.05.23 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求
 原告/被告:台湾積體電路製造股份有限公司/特許庁長官
 キーワード:数値限定,臨界的意義,明確性要件,リパーゼ判決
 関連条文:特許法第29条2項

○事案の概要

 本願発明(請求項6)は,「……前記複合低k誘電体層内の応力を調整する前記応力調整層は,酸素を含有する炭化シリコン(SiaCbOc)で構成され,前記aは0.8~1.2であり,前記bは0.8~1.2であり,前記cは0を含まない0~0.8であることを特徴とする配線構造。」とする発明である。
 審決は,引用例記載の発明を,上記「炭化シリコン」が「主成分が炭化ケイ素(SiC)のBlock」とされている点においてのみ本願発明と相違し,他の構成は本願発明と一致するものと認定して,本願発明は,引用発明及び周知技術から容易に発明をすることができたものとして本願を拒絶した。
 本件は,この拒絶審決の取消請求事件である。

○知財高裁の判断

(1)本願に係る特許請求の範囲に記載された「cは0を含まない0~0.8である」との文言について,その技術的意義が一義的に明確に理解することができないものということはできないし,本願明細書の記載に照らしても,一見して特許請求の範囲の上記文言が誤記であるということもできないから,本願発明の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである。

(2)引用発明において応力再分配層の材料となるSiC膜について,酸素の組成比は,引用発明では不可避的に混在する程度の微量であるが,本願発明においても,0に限りなく近いもの,すなわち不可避的に含まれるような微量の場合を含むものであるから,本願発明と引用発明との間に,酸素の構成比において実質的な相違はない。

(3)原告は,本願発明に係る特許請求の範囲に記載された「酸素を含有する炭化シリコン」とは,意図的に酸素を含有させることを意味し,不可避的に微量の酸素が含まれるような場合を想定していない,などと主張する。
 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「酸素を含有する炭化シリコン」が意図的に酸素を含有させたものであるとは記載されていないし,本願明細書にも,「酸素を含有する炭化シリコン」が意図的に酸素を含有させるものであることの記載や示唆はない。

(4)本願明細書には,a及びbの数値範囲をそれぞれ0.8~1.2とし,cの数値範囲を0を含まない0~0.8とすることの技術的意義は何ら記載されていない。
 したがって,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものであり,これを採用することはできない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 原告は「……炭化シリコン(SiaCbOc)……,前記cは0を含まない0~0.8である」の数値限定の意義につき,酸素をその効果が発揮できる程度に意図的に含有させたことを意味するものと主張したが,裁判所は,この主張を退けている。
 もともと「0を含まない0~0.8」は,少数を含む数値範囲を示すものであるから,その下限値は明確ではない。また,原告の「酸素をその効果が発揮できる程度に意図的に含有させ」たことを意味する,との主張も根拠が明確ではない。そして,引用発明の「炭化ケイ素(SiC)」も不可避的に酸素を含有しているから,両者を区別することはできず,本願発明と引用発明の組成範囲は実質的に重なっている。
 この判決によると,本件において,酸素を含有させたことよる効果を主張するには,不可避的な酸素含有量より多いところに酸素含有量の下限値を設定するとともに,その下限値を越える酸素を含有する実施例と不可避的な酸素含有量の比較例とを比較して,その効果を示すことが必要のようである。
 なお,最高裁判決(昭和62年(行ツ)第3号「リパーゼ事件」)は,新規性,進歩性の審理における発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであり,①特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,②一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明を参酌することが許されるに過ぎない,としているが,本判決もこの最高裁判決の考え方を踏襲したものである。

(須山 佐一)

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