知的財産情報

ホーム > 知的財産情報 > 判例紹介 > 太陽電池用平角導体事件

判例情報


平成24年(行ケ)第10433号
太陽電池用平角導体事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 耐力に係る数値範囲について,本願発明は,セルの反りを減少させることに,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することにそれぞれ着目して決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない,として,両者は実質的に同一の発明ではないと判断された。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10433号(知財高裁 H25.09.19 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求
 原告/被告:日立電線/特許庁長官
 キーワード: 実質的同一,除くクレーム,解決課題
 関連条文:特許法29条の2

○事案の概要

 本件特許の請求項1記載の発明(本件発明)は,「体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽電池用平角導体。」である。
 審決は,本願発明と先願基礎発明の相違点を,本願発明は,引張り試験における0.2%耐力値について,「(ただし,49MPa以下を除く)」とされている点,を認定し,上記耐力の範囲は,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であり,両者は実質的に同一であると判断した。

○知財高裁の判断

(1)本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致するにすぎず,…本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず,全く異なるものである。
 また,耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はない…。したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

(2)本願発明は,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。
 これに対し,先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというものである。
 前記のとおり,本願発明はセルの反りを減少させることに,先願基礎発明はクラックを防止することに,それぞれ着目して,耐力に係る数値範囲を決定しているのであるから,両発明の課題は異なり,共通の技術的思想に基づくものとはいえない。

(3)以上のとおり,本願発明と先願基礎発明とは,実質的に同一の発明であるということはできない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 先願基礎発明と本願発明も,平角導体を塑性変形しやすいものにして半導体基板との接続界面の熱応力を緩和するという点で技術思想として共通するものであり,技術的には,平角導体の0.2%耐力値が小さいほど大きい応力緩和効果が得られるものと考えられる。実際,本願明細書の実施例では,除くクレームで排除された耐力値が40MPaの太陽電池用リード線の反りが最も小さくなっている。
 本件では,裁判所は,①耐力値の範囲について本願発明と先願基礎発明の重なり部分が「除くクレーム」で排除されている,②耐力値の範囲設定が,「セルの反りを減少させる」ためになされたか,「クラックを防止する」ためになされたか,の耐力値の範囲設定の意図が相違する,ことを本願発明と先願基礎発明とが実質的に同一でない,とする根拠に挙げている。
 ところで,両者の明細書の全体,特に実施例を対比して見ると,本願の実施例は,圧延成形した銅材料を熱処理して所定の耐力値に調整した平角導体であるのに対して,引用発明のそれはいずれも三層のクラッド材であり,具体的に開示された技術内容は,本願発明と先願基礎発明で大分違った内容になっている。
 ちなみに,先願明細書にも,実施例と並列的にCu単層で耐力値が41.2MPaの参考例が記載されている。本願における「除くクレーム」の補正は,この先願の参考例との重なり部分を排除するためにされたように思われる。なお,この参考例は,先願の審査の過程で,拒絶理由通知に対応して自発的に「実施例」から「参考例」に補正されたものである。
 裁判所の判断は,このような背景のもとでなされたのであり,上記①,②の発明の異同判断の根拠が他の事件にも当てはまるかどうかについては各事件によって検討が必要である。

(須山 佐一)

© 2017 SAKURA PATENT OFFICE. All Rights Reserved. 特許業務法人 サクラ国際特許事務所
〒101-0047 東京都千代田区内神田1丁目18-14 ヨシザワビル6階
Tel. 03-5577-3066(代)/Fax. 03-5577-3067
国内および外国特許・意匠・商標の出願代理、鑑定、相談、訴訟|特許業務法人 サクラ国際特許事務所