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平成25年(行ケ)第10068号
窒化物半導体素子事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 特定の領域での結晶欠陥数を規定した窒化物半導体素子の発明に対し,引用発明の製法において,欠陥密度の低い領域のみを形成すべき動機付けがあるとはいえないとして,容易想到性が否定された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10068号(知財高裁 H25.11.19 判決言渡)
 事件の種類:特許維持審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:三洋電機/日亜化学工業
 キーワード:動機付け,技術的意義
 関連条文: 特許法29条2項

○事案の概要

 訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)は,「厚みが50μm以上であり,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2㎥以下である,ハライド気相成長法(HVPE)を用いて形成されたn型不純物を含有するGaN基板と,前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層と,前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極と,前記GaN基板の下面に形成されたn電極と,を備えた」窒化物半導体素子に関する発明である。審決は,本件発明1が技術的意義を有しないとする請求人の主張を退け,本件発明は引用発明から容易に想到できたものではないと判断した。

○知財高裁の判断

 審決の指摘する相違点1は,以下の3点に区分されると解される。すなわち,審決は,本件発明1…に対して,引用発明の「n型の不純物をドープしたn型クラッド層62」は,結晶欠陥の数については,キャリア注入により素子動作を行う領域では104~105cm-2であるが,ダイシング領域近傍において,108~1011cm-2,106~107cm-2程度の領域が除去されているか否か不明である点(相違点1-1),…引用発明のクラッド層62は,厚みに関する特定がなされていない点(相違点1-2),…引用発明のクラッド層62は,有機金属気相成長法を用いて形成されている点(相違点1-3)を指摘している。
 引用発明における…目的は,上記の結晶成長方法とともに上記のダイシング法及びリッジストライプ構造を採用したことにより達成できるものであって…,ダイシングする際に,それらの欠陥密度の高い領域を積極的に全て除去して欠陥密度の低い領域のみを形成すべき動機付けがあるとはいえない。
 しかし,本件発明1が結晶欠陥の偏在の少ない窒化物半導体素子を提供することを目的とする物の発明であることに照らすと,GaN基板の面方向に5μmよりも上の部分において,結晶欠陥の数が1×107個/cm2を超えるような偏在箇所を有していない素子であることは,本件発明1の特徴的な部分であって,引用発明における結晶欠陥の偏在がある基板とでは,基板自体が物として異なることは明らかである。また,活性層のうち,リッジストライプに対応する領域,すなわち,発光する領域以外の領域において,結晶欠陥の数が,1×107個/cm2以下であることに技術的意義を有しないとする合理的根拠が明らかにされておらず,上記主張は採用できない。
 以上から,引用発明において相違点1-1に係る構成を採用することについて,当業者が容易に発明することができたということはできない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 本件特許は,親出願である「半導体素子の成長方法」(特願平10-132831号)から分割出願されたもので,「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域」における「結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下」であることを発明特定事項としたものである。
 審決は,この少ない結晶欠陥の数は,本件特許明細書に記載の方法によってのみ実現できるものと認定したが,裁判所は,この認定は誤りであるが,審決の結論に影響を及ぼすものではない,として請求を棄却している。審決の認定のように,分割した物の発明が,明細書記載の方法で製造された物に限定されるのでは,「物の発明」を分割出願した実益がなくなってしまうから妥当な判決といえる。
 結晶欠陥の数は,半導体の品質を示すパラメータであるが,結晶欠陥の特定の仕方で従来製品と区別が可能であれば,「物の発明」として構成することもできることを示した例である。

(須山 佐一)

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