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平成24年(行ケ)第10270号
気相成長結晶薄膜製造方法事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 本願発明における「高温炉」と引用発明における「加熱されたプレート」の加熱の目的,機能の違いにより引用発明に対する進歩性が認められた。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10270号(知財高裁 H25.04.24 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消訴訟
 原告/被告:X/特許庁長官
 キーワード:加熱の目的,機能の相違,容易想到
 関連条文:特許法第29条2項

○事案の概要

 本件は,拒絶審決に対する審決取消訴訟において審決取り消しの判決がなされ,再開された審判において,再度請求棄却の審決がなされたことから,審決の取り消しを求めて提起された審決取消訴訟の判決である。
 再度なされた審決では,本願発明1と引用発明(引用文献1記載の発明)との相違点Dを,本願発明1は,「高温炉」の中で基板表面上に結晶を成長させているのに対し,引用発明は,「プレートが配設場所にある電気抵抗器により約380℃から430℃の温度へ上昇させたチャンバー」により多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせると特定されている点,と認定した。そして,引用文献1に「・・・他の加熱装置,例えば赤外線加熱の利用も考えられる。」と記載され,引用文献2には本願発明1の高温炉に相当する「マッフル炉」が記載されているから,相違点Dは,当業者であれば容易に想到し得る設計事項の採用というべきである,と判断して請求を棄却した。

○裁判所の判断

 本願発明1においては,高温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微粒子を含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表面に結晶薄膜を形成するものであると認められる。このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものである。
 他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はない。
 そして,これらの技術的内容は,確定した前回判決において,すでに認定,判断された事項である。本願発明1と引用発明の間の相違点について容易想到性の有無の判断をするに当たっては,前回判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべきである。
 上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わせることにより,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。
 引用文献2の記載からすると,引用文献2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物を,ヒータにより加熱される搬送ベルトからの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱によりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,基板表面又は基板近傍で熱分解させるものである。
 このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,その壁に接触した微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものではないから,引用発明に,引用文献2に記載された発明(及び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容易に至ることはない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 本件は,審決取消判決により再開された審判において,再度拒絶審決がなされ,この拒絶審決の取消しを求めて提起された審決取消訴訟の判決である。
 前回判決は,本願発明の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」の技術的意義を明らかにした上で,「チャンバー」が本願発明1でいう高温炉に相当するとした審決の判断は誤りであり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすと認められるから,審決は取り消されるべきである,と判断した。
 本判決では,本願発明1と引用発明の相違点について,前回判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義を考慮した上で,引用文献2のマッフル炉の技術的意義を明らかにし,引用発明に,引用文献2に記載された発明(及び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては相違点Dに容易に想到し得ないものと判断している。

(須山 佐一)

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