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平成25年(行ケ)第10323号
電子製造プロセス内で使用するための塗布器液体事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 引用例1の未精製のカーボンナノチューブ分散液中において,1000分以上液中に凝集体が浮遊せず,また,引用例2の酸化黒鉛の薄膜状粒子が10日以上かけて沈降したとしても,引用例1の精製したカーボンナノチューブ分散液が,「少なくとも1週間は分離状態を維持でき」るかどうかは明らかではないとして,拒絶審決が取り消された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10323号(知財高裁 H26.10.09 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:ナンテロ,インク./特許庁長官
 キーワード:進歩性,実質的な相違点,未精製のカーボンナノチューブ分散液,分離状態関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明は,「溶媒と複数のナノチューブとを含んだ塗布器液体であって,該塗布器液体は,ポリマーも界面活性剤も含んでおらず,前記ナノチューブの濃度が10mg/L以上であり,複数の該ナノチューブは互いに分離されており,沈降あるいは凝集することなく,前記塗布器液体中に分散されて,少なくとも1週間は分離状態を維持でき,その金属不純物レベルを約1×1018原子/cm3未満のレベルにまで低減させており,前記塗布器液体は約500nm以上の粒子径を有した粒子を含有していないことを特徴とする塗布器液体。」である(請求項1)。
 審決は,本願発明と引用例1記載の発明(以下「引用発明」という。)の相違点1を,本願発明では,「少なくとも1週間は分離状態を維持でき」るのに対して,引用発明では,『精製されていない分散液IまたはK』の時間t0(1000分以上)よりも長い時間分離状態を維持できるものの,上記の特定がなされていない点,と認定し,本願発明を引用発明から容易想到であると判断した。

○知財高裁の判断

 引用例1の【発明の実施の形態】には,アーク放電法で作製した単層カーボンナノチューブを各種有機溶剤に混合し,所定の周波数の超音波を照射して,分散液I(有機溶剤がジメチルスルホキシドであるもの)及びK(有機溶剤がγ-ブチロラクトンであるもの)を含む精製前の分散液を作製したこと・・・が記載されている。
 そして,ここにt0が「1000分以上」であったとは,分散液の観察を1000分まで行った結果,少なくとも1000分は液中に凝集体が浮遊し始めることがなかったことを意味するものであることは,当業者にとって明らかである。
 しかるに,引用例1には,上記の精製前の分散液I及びKを精製したもの,すなわち,「精製された分散液IまたはK」については,t0の測定結果が示されておらず,これが具体的にどの程度であるのかについて何ら記載がない。また,分散液を精製してカーボンナノチューブに含まれる不純物を除去することにより,精製前の分散液と同等又はそれ以上の分散性が得られることが,本願優先権主張日前に知られていたと認めるに足りる証拠はない・・・。さらに,「精製された分散液IまたはK」のt0が少なくとも1000分であると仮定したとしても,・・・分散液中のカーボンナノチューブが,「少なくとも1週間は分離状態を維持でき」るかどうかについて,引用例1には何ら記載や示唆がない。

 引用例2には,薄膜状粒子を分散させた分散液を静置し,薄膜状粒子を重力のみで沈降させて集合体を形成する場合には,きれいな積層とするために,薄膜状粒子を10日以上(望ましくは30日以上)かけてゆっくりと沈降させることが記載されているにすぎず,複数の薄膜状粒子が互いに分離されており,沈降あるいは凝集することなく,分散液中に分散されて,少なくとも10日(又は30日)は分離状態を維持できることが記載されているわけではない。・・・引用例2によって,複数の薄膜状粒子が互いに分離されており,沈降あるいは凝集することなく,分散液中に分散されて,少なくとも10日(又は30日)は分離状態を維持できることが知られていたと仮定しても,この薄膜状粒子は,擬一次元形状を有するカーボンナノチューブとはその形状が大きく異なるから,その分散性も大きく異なると理解することができる。そして,むしろ薄膜状粒子のほうが,擬一次元形状を有するカーボンナノチューブよりも,分散性が優れていることが予想されるから,このような引用例2を参照しても,引用発明における複数のカーボンナノチューブが,「少なくとも1週間は分離状態を維持でき」ると結論付けることはできない。このことは,引用例2において使用される有機溶媒(メタノール,エタノール,アセトン等)の比誘電率が,引用発明において使用される有機溶媒(ジメチルスルホキシド,γ-ブチロラクトン)の比誘電率よりも低い(引用例1の表1)ために,使用される有機溶媒の点からは,引用例2のほうが分散性が劣る(引用例1【0053】)としても,変わるものではない。

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