知的財産情報

ホーム > 知的財産情報 > 判例紹介 > 柔軟化組成物事件

判例情報


平成26年(行ケ)第10052号
柔軟化組成物事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

本願明細書には,請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されたイミン化合物につき,これらの組成物等の香料成分の遅延放出の程度や香りの残留性の程度等の本願発明の課題を解決したことを示す具体的な記載がなく,サポート要件を満たさないとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10052号(知財高裁 H26.11.20 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶持審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー/特許庁長官
 キーワード:サポート要件,アミン化合物,香料成分の遅延放出
 関連条文:特許法36条6項1号,同項2号,同条4項,同条1項1号

○事案の概要

 本願発明は,洗濯用・クリーニング用製品において,特に香料成分の遅延放出をもたらす化合物を含有する柔軟化組成物に係る発明である。本願の請求項1の発明(本願発明1)は,柔軟化組成物に含有される,アミン化合物について,多数のアミン化合物が選択肢として規定されている。
 審決は,本願請求項1により特定される「アミン化合物」の全てが,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとして,サポート要件及び実施可能要件を満たさないと判断した。

○知財高裁の判断

 知財高裁は次のような理由により,本願は,特許法36条6項1号に適合しないと判断した。
 「本願請求項1には,上記反応生成物に関し,「第一及び/又は第二アミン化合物と,・・・との間の反応生成物」と特定され,さらに上記アミン化合物についてその種類が列挙されて特定され,かつ,上記アミン化合物のうち,その臭気度が,・・・のそれよりも低いものに限定されている(前記(1))。他方,香料ケトン及び香料アルデヒドの種類については何ら特定されていない。
 一般に,化合物の分解速度は,化合物が置かれた温度,湿度等の環境条件のみならず,化合物自体の構造や電子状態等に複合的に依存して,化合物ごとに,分解を受ける部位や分解の機序に応じて異なるものであるから,通常,当業者といえども,実際に実験をしない限り予測し得るものではない。このことは,本願請求項1の反応生成物からの香料成分の放出についても同様であると解され,本願請求項1のアミン化合物が様々なものを包含するものである以上,一定の環境下であっても,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されるイミン化合物につき,・・・香料成分を放出する速度はそれぞれ異なるし,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されるβアミノケトン化合物についても,・・・香料成分を放出する速度はそれぞれ異なるものと解される。
 しかし,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,・・・これらの組成物等の香料成分の遅延放出の程度や香りの残留性の程度等,本願発明の課題の解決に必要な程度に望ましい香料成分の遅延放出をもたらすことや,布地における清々しい香りの残留性を改良できることを示す具体的な記載はされていない。
 ・・・本願明細書の【発明の詳細な説明】には,本願請求項1の発明特定事項である列挙された特定のアミン化合物で,かつ,その臭気度が,・・・よりも低いものにつき,任意の香料ケトン又は香料アルデヒドと反応させて得たイミン化合物又はβアミノケトン化合物であれば,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香りの残留性を改良するという本願発明の上記課題を解決できることについては何ら理論的な説明はされていない。
 以上によれば,当業者といえども,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願請求項1において規定された反応生成物の全てが,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香りの残留性を改良するという本願発明の課題を解決できるものであると認識することはできないものというべきである。」

 なお,知財高裁は,次の理由により原告の主張を退けた。
 「本願明細書の記載や他の各証拠によっても,アミン化合物の臭気度と,アミン化合物と香料ケトン又は香料アルデヒドとの反応生成物からの香料の放出されやすさとの間に関連性があることは認められない。また,臭気度が「ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低」いアミン化合物と香料ケトン又は香料アルデヒドの反応生成物が,たとえ清々しい香りを呈するとしても,そのことにより直ちに,本願発明の課題を解決し得るほどの香りの残留性等がもたらされるといえることにもならない。」
 「本願発明の課題を解決するには,香料成分生成の速度がほどよく遅延して,香りの残留性が改良されることが必要であると解されるところ,本願明細書【0125】ないし【0131】には,芳香物質の生成の機序が記載されているにとどまり,その機序に従って反応生成物が分解され芳香物質を生成する速度等に関しては何ら記載されていない以上,本願明細書【0125】ないし【0131】の記載をもって,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度の開示があるものということはできない。」

© 2017 SAKURA PATENT OFFICE. All Rights Reserved. 特許業務法人 サクラ国際特許事務所
〒101-0047 東京都千代田区内神田1丁目18-14 ヨシザワビル6階
Tel. 03-5577-3066(代)/Fax. 03-5577-3067
国内および外国特許・意匠・商標の出願代理、鑑定、相談、訴訟|特許業務法人 サクラ国際特許事務所