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平成26年(行ケ)第10121号
放射線低減方法事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

発明特定事項の「放射性物質から放出される放射線量を低減する」は,放射線を消滅させるのか,放射性物質を除くことなのか明確でないし,「磁力還元水」が性物質に対してどのような作用効果を及ぼすのかなどの具体的な原理については,本願明細書は何ら開示していない,として請求が棄却された。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10121号(知財高裁 H26.12.24 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:有限会社新興設備/特許庁長官
 キーワード:明確性要件,実施可能要件,技術常識,磁力還元水,具体的な原理
 関連条文:特許法36条6項2号,同4項1号

○事案の概要

 請求項1の発明は,「磁気水処理装置の内部に磁石による磁力線が通った路を水が流れることで生成される磁力還元水を,放射性物質と合わせることにより,当該放射性物質から放出される放射線量を低減することを特徴とする放射線低減方法」の発明であり,請求項5の発明は,この方法を用いた装置発明である。
 審決は,「放射性物質から放出される放射線量を低減する」は明確ではないし,原告実験の結果についても,シーベルトを用いた本願明細書とベクレルを用いた実験結果との関係についての検証がないことや,原告実験の結果に様々な外因が関係している可能性を排除できないこと,等から,本件仮特定事項が実現できたとはいえない,として,請求を棄却した。

○知財高裁の判断

(明確性要件に関する判断の誤り)について
 「……本願明細書の【0021】の実施例1は,処理後,ろ過器に残った灰の放射線量とケース内の水の放射線量の両方を測定して放射線低減装置の系内における全放射線量を把握することにより,処理前の放射線灰の放射線量と比較して放射線量の低減効果を確認したものと理解できるのであり,放射性物質を系外に移動するといった除染を行うものでないと認め得る。また,【0022】の実施例2も,ミキサーによる回転,混合後,ミキサー内の水を取り除いてからミキサー内の放射線量を測定したものではないと理解できるのであり,やはり,除染を行うものでないと認め得る。そうすると,【0021】【0022】の記載を根拠として,本件特定事項に除染を含む可能性があるとの解釈をした審決の説示部分は,当を得たものとはいえない。
 しかしながら,本願明細書の【0021】【0022】の記載を理由とするまでもなく,本件特定事項自体が,上記(1)①~③のいずれであるかが技術的に明らかではないのであるから,実施例が上記(1)③の除染を開示したものではないからといって,本件特定事項が明確となるわけではない。審決の判断の要所は,本件特定事項が明確ではないという点にあって,除染は,本件特定事項が多義的に解釈できるその一例を示したにすぎない。
 したがって,審決が除染を含む可能性があることの根拠として本件明細書の実施例を示した点に誤りがあったとしても,本件特定事項が明確でないとの結論には影響しない。……」

(実施可能要件に関する判断の誤り)について
 「……前記2(2)にて認定したとおり,放射性物質が物質ごとに固有の一定不変の半減期を有することは技術常識であるから,本願発明1の方法や本願発明5の装置を用いることにより,この半減期を調整できるとする技術事項は,この技術常識に反するものである。
 しかるに,本願明細書には,放射性物質と「磁気還元水」とを混合等すること,又は放射性物質を含有した水を磁力線の中で通過させること(【0017】【0018】【0021】【0022】)により,放射性物質から放出される放射線量が低減できるとの記載しかなく,そのほかには,「磁気還元水」を発生,循環処理するための装置の構造が開示されているにとどまる。
 したがって,本願明細書からは,水を磁場環境下に置いたものを「磁力還元水」と呼んでいることは理解できるが,その「磁力還元水」がどのような性質のものでどのような作用を有するか,「磁力還元水」が放射性物質に対していかなる作用効果を及ぼすかなどの具体的な原理については,本願明細書は何ら開示をするものではない。」
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,本願発明がその発明の効果を得るためにとった課題解決原理は明らかではないから,当業者は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本願発明を実施することはできない。……」

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