甲3発明において,原料表面や原料外空中での菌糸の生育が抑制され,原料への菌糸の破精込みを活発にすることの動機付けはなく,甲16にも撹拌中においてなお突き破精を促進するという技術的思想まで開示されているとはいえないから,相違点に係る構成は,当業者が,甲3ないし周知技術から導き出すことはできないというべきである。
事件番号等:平成26年(行ケ)第10103号(知財高裁 H26.12.24 判決言渡)
事件の種類(判決):無効審決取消請求(審決取消)
原告/被告:カワタ工業株式会社/株式会社フジワラテクノアート
キーワード:一致点,相違点,技術常識,動機付け
関連条文:特許法29条2項
審決は,本件発明3と甲3発明を対比して,本件発明3において,回転ドラム本体内に品温センサが装着されているのに対して,甲3発明では明らかでない点,本件発明3において,回転ドラム本体内などの温度を製麹開始温度になるように調節しているのに対して,甲3発明では明らかでない点,本件発明3において,「原料の品温上昇後に」攪拌を開始するのに対して,甲3発明では「発芽準備のために停止」させた後に製麹原料の攪拌を開始する点などを,相違点として認定した上で,これらの相違点は,技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,と判断して,本件発明3に係る特許を無効とした。
知財高裁は,本件発明3と甲3発明の相違点を,「本件発明3において,「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に」「製麹原料の品温上昇後に」製麹原料の攪拌を開始するのに対して,甲3発明では「発芽準備のために停止」させた後に製麹原料の攪拌を開始する点(相違点3),本件発明3において,「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,」製麹原料が傾斜面から順次落下する時に,回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われるのに対して,甲3発明では,「品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行う」ことが明らかでない点(相違点4),本件発明3が「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して,甲3発明では明らかでない点(相違点5)など,相違点1~6を認定した上で,審決には,相違点3~5に関する判断の誤りがあり,これらは結論に影響を及ぼすから,原告主張の取消事由2は理由があるとして,審決のうち,特許を無効とする部分を取り消した。
相違点5に関する判断について(相違点3,相違点4に関する判断は省略)
本件発明3は,請求項に記載されたとおりの製麹工程を採用したことにより,「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」することを達成したものである。
それに対して,甲3発明は,製麹原料として穀物からのふすまを用いてタカジアスターゼの原料となる糖化物を製造するものである。この糖化物において,糖化力が重視され,ふすま表面に十分菌糸が乳白色に発育しているものが好ましいとされており(乙3),上述の本件発明により製造される固体麹とは,破精込みの態様の点で相違するものである。
本件特許請求の範囲において「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」するための各種条件等が十分特定されているかはともかく,甲3発明において,原料表面や原料外空中での菌糸の生育が抑制され,原料への菌糸の破精込みを活発にすることの動機付けはなく,上述したとおり,甲16にも撹拌中においてなお突き破精を促進するという技術的思想まで開示されているとはいえないから,相違点3及び4が容易想到とはいえない以上,相違点5に係る構成もまた,当業者が,甲3ないし周知技術から導き出すことはできないというべきである。
したがって,審決の相違点5に関する判断には誤りがある。