太陽光線を活用して波長300~400nmの紫の透過光によって鳥インフルエンザウイルス等を損傷させるのは本願発明のみであるなどとする原告の主張は,請求項の記載に基づかないものとして退けられ,本願発明が引用発明と同一であるとされた。
事件番号等:平成26年(行ケ)第10167号(知財高裁 H26.12.10 判決言渡)
事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(請求棄却)
原告/被告:有限会社日新電気/特許庁長官
キーワード:同一の発明,特許請求の範囲の記載に基づかない,紫色で透明の施設,鳥インフルエンザウイルス
関連条文:特許法29条1項3号
請求項1に記載された本願発明の要旨は,以下のとおりである。
「[請求項1]「屋内を殺菌作用のある紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線で透過して,ウイルスを殺菌することを特徴とした,『紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する構造としたウイルス殺菌安全施設』。」
審決は,本願発明は,引用例(甲1)記載の発明(引用発明)と同一の発明であるから,特許法29条1項3号により特許を受けることができないと判断した。
原告は,本願発明は,鳥インフルエンザウイルスのように抗体の変異が極めて早いウイルスのDNAを損傷する構造原理として,透明の紫色の畜舎であることを必須の要件とし,紫外線照射装置からの光線ではなく,太陽光線を活用して紫の透過光を利用するものであって,畜舎を透過した光線の波長が300~400nmであるのは,本願発明のみである旨主張する。
しかしながら,本願発明の請求項上,ウイルスを殺菌することや,紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線が透過することは,発明特定事項となっているが,光線の光源や,紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線の透過率は,発明特定事項となっておらず,光源が太陽であること,施設で殺菌する対象が鳥インフルエンザウイルスや同ウイルスのように抗体の変異が早いウイルスであること,施設自体が透明の紫色であることは,いずれも限定されていない。可視光線の波長が400~700nmであり,紫の波長は380~430nmであること,可視光線よりも波長の短いものを紫外線と呼び,その中でも波長の長いものを近紫外線と呼ぶこと,太陽光線由来のものであるか否かにかかわらず,300~400nm付近の波長の近紫外線には殺菌作用があることは,本願出願時における技術常識であるから(甲1,乙1ないし5),上記請求項の記載は,明細書の記載を参照しなければ理解できないようなものではなく,本願明細書の記載を参照する必要はない。したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものというほかない。本願発明は,太陽光線からの紫色の透過光を利用したものに限られず,また,鳥インフルエンザウイルスを殺菌する施設に限定される必要もない。
また,原告は,本願明細書において,符号の説明で,「ウイルス殺菌安全施設」について「紫色で透明の施設」と記載されているのは,本願発明に係る施設が,普通の紫外線のほかに,紫色で透明の物質をも透過するからであって,ただの透明な施設ではない旨主張する。
しかしながら,・・・・本願発明の請求項において,施設の色や透明性の有無に関する限定はないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものというほかない。本願発明の施設は,紫色で透明の施設に限られるわけではない。
以上によれば,本願発明と引用発明は,ともに「紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する構造とした施設。」という点で一致し,形式的には,本願発明は,紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線に関して「殺菌作用のある」こと,また,施設に関して「ウイルスを殺菌することを特徴とした,ウイルス殺菌安全施設。」であるのに対し,引用発明はそのようなものであるか不明である点が相違すると認められる。
しかしながら,引用発明の畜舎も,透明な合成樹脂シートを貼り付けた近紫外線及び紫を含む可視光線が透過した施設であるから,紫外線及び波長400nm近辺の可視光線が透過し,本願発明と相違する点はない。そして,本願発明は,紫色の可視光線と不可視光線の近紫外線に関する透過率を発明特定事項としていないから,ウイルス殺菌効果の程度を限定しない発明と解されるところ,引用発明においても,紫外線及び波長400nm近辺の可視光線が透過する以上,一定程度のウイルス殺菌作用があることは明らかであるから,作用効果の面から本願発明と引用発明とが異なる発明と認識されるものではない。したがって,本願発明は,引用発明と同一の発明ということができる。審決の判断に誤りはない。