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平成26年(行ケ)第10201号
熱間プレス用めっき鋼板事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 同等の技術的意義を有する発明として記載された「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」のうち,どのような組成を選択して特許請求の範囲として訂正するかは,特許権者が自由に決定できる事項であるから,当該訂正は特許請求の範囲の減縮に当たるとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10201号(知財高裁 H27.09.03 判決言渡)
 事件の種類(判決):維持審決取消請求事件(請求棄却)
 原告/被告:JFEスチール株式会社/新日鐵住金株式会社
 キーワード:特許請求の範囲の減縮,新規事項の追加,訂正要件
 関連条文:特許法134条の2第1項

○事案の概要

 本件特許の請求項1は,「表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛または亜鉛系合金のめっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700~1000℃に加熱されてプレスされる熱間プレス用鋼板。」である。本件特許に対しては,原告により特許無効審判が請求されたため,被告は,本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲に関しての訂正請求をした。訂正請求における特許請求の範囲の訂正は,本件訂正前の請求項1及び請求項7において,それぞれ「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」を,「亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層」と訂正するものである(本件訂正1,本件訂正17)。本件訴訟においては,本件訂正1および本件訂正17について訂正要件違反の看過の有無が争われた。

○知財高裁の判断

 本件訂正1及び17は,・・・本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び7に含まれていた純亜鉛のめっき層を除外し,更に亜鉛系合金のめっき層について,亜鉛系合金に含まれる元素を特定することにより,特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
 原告は,本件明細書において,8例の実施例は,いずれも単に,「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の例示にすぎず,特定のめっき層の奏する作用効果についての記載はないから,参考例に対応する構成(亜鉛めっき層,亜鉛-鉄めっき層,亜鉛-アルミニウムめっき層)を特許請求の範囲から除外して,本件訂正発明の特許請求の範囲に列挙された合金めっき層に限定する理由も,かかる限定を示唆する技術的事項も,本件明細書には全く記載されていない旨主張する。
 しかし,明細書に記載された複数の発明の中から,どの発明部分を特許請求の範囲として特許出願するかは出願人が自由に選択できる事項であり,特許請求の範囲を当該選択した発明部分に限定した理由等が明細書に記載されていないからといって,それだけでは,新規事項を導入する訂正として許されないこととなるものではない。そして,本件訂正1及び17に係るめっき層は,本件明細書に記載されていたものであって,本件明細書の【0014】~【0020】,【0028】,【0068】と,本件訂正明細書の【0014】~【0020】,【0028】,【0068】の記載を対照すれば明らかなように,本件発明と本件訂正発明とは,解決すべき課題,課題解決手段及び作用効果については何ら変わるところがない。
 また,本件明細書の【表5】においては実施例とされていたが,本件訂正によって参考例とされた「亜鉛めっき層」,「亜鉛-鉄めっき層」,「亜鉛-アルミニウムめっき層」と,本件訂正明細書の【表5】において,本件訂正によっても実施例のままとされた「亜鉛-ニッケルめっき層」,「亜鉛-コバルトめっき層」,「亜鉛-鉄―マグネシウムめっき層」との間で,加熱後外観,成形性,塗膜密着性及び耐食性について特に差異が認められておらず,いずれも本件発明においては同等の技術的意義を有する発明として記載されているものであって,本件発明の「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の中からどのような組成のものを選択して特許請求の範囲として訂正するかは,特許権者である被告が,本件特許に先行する発明において開示されている発明の内容その他諸般の事情を考慮して自由に決定できる事項というべきであるから・・・本件訂正1及び17が,新規事項を導入する訂正となるものではない。

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