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判例情報


平成27年(ワ)第1025号
pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 本件発明の出願前に原告が販売したビールテイスト飲料において,飲み応えの向上を目的として,そのエキス分の総量を本件発明の量とすることに困難性はないから,本件特許は無効理由を有するとされた。

 事件番号等:平成27年(ワ)第1025号(東京地裁 H27.10.29 判決言渡)
 事件の種類(判決):特許権侵害差止請求(請求棄却)
 原告/被告:サントリーホールディングス株式会社/アサヒビール株式会社
 キーワード:進歩性,ノンアルコールのビールテイスト飲料,エキス分,飲み応え
 関連条文:特許法29条2項,同法104条の3第1項

○事案の概要

 本件特許の請求項1は,「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」である。
 本件特許権侵害差止請求において,被告は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを争わず,本件特許に無効理由があることを主張した。

○知財高裁の判断

 東京地裁は,本件特許発明は,公然実施発明1(「サントリー オールフリー」)又は公然実施発明2(「アサヒ ダブルゼロ」)に基づく進歩性欠如の無効理由を有すると判断し,公然実施発明1に基づく進歩性欠如については以下の理由を示した。

 公然実施発明1は,・・・ノンアルコールのビールテイスト飲料であり,エキス分の総量は0.39重量%,pHの値は3.78,糖質はゼロ(栄養表示基準に基づき100ml当たり0.5g未満)であると認められる。そうすると,本件発明と公然実施発明1は,エキス分の総量につき,本件発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であるのに対し,公然実施発明1が0.39重量%である点で相違し,その余の点で一致する。
 これに対し,原告は,本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするものであり,公然実施発明1はこのような技術思想を開示するものではないから,オールフリーの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明1を特定することは許されず,エキス分の総量,pH及び糖質の含量をひとまとまりの構成として相違点を認定すべきである旨主張する。
 そこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり解することができる。
 エキス分の総量,pH及び糖質はノンアルコールのビールテイスト飲料の性状を特定する上でごくありふれた項目であり,当業者であれば当然に着目する事項とみることができる。さらに,本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分又は糖質として具体的にどのような物質をいかなる量含有するか,pHの数値をどのように規制するかを特定するものでなく,また,他の成分の存否や測定値につき触れるところもない。そうすると,別紙1-1~3に示された公然実施発明1の多数の分析項目のうちエキス分の総量,pH及び糖質以外の成分等の分析結果は,本件発明の進歩性を検討するに当たり考慮する必要はないと考えられる。

 上記事実関係によれば,公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり,これを改善するための手段として,エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる。そして,その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。
 なお,飲料中のエキス分の総量を増加させた場合にはpH及び糖質の含量が変化すると考えられるが,エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),pHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明1にエキス分を適宜(例えば,非糖質由来で酸性又は中性のものを)加えてその総量を0.5重量以上としつつ,pH及び糖質の含量を公然実施発明1と同程度のもの(本件発明の特許請求の範囲に記載の各数値範囲を超えないもの)とすることに困難性はないと解される。
 以上によれば,本件発明は公然実施発明1に基づいて容易に想到することができたから,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。

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